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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)95号 判決

原告 旭礦末資料合資会社

被告 仙台通商産業局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

(原告)

「原告が昭和二六年二月二二日被告に対し福島県田村郡大越町大字上大越字欠入地内の別紙図面記載の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)および(A)の各点を順次に結ぶ直線で囲まれた区域を含む地域についてした鉱業権設定の出願につき、被告が昭和三九年三月四日なした右に特定の区域に関する不許可処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

(被告)

主文同旨の判決を求めた。

第二原告主張の請求の原因

一  原告は昭和二六年二月二二日被告に対し福島県田村郡大越町地内の別紙図面記載の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)および(A)の各点を順次に結ぶ直線で囲む区域を含む地域について石灰石およびドロマイドを目的とする鉱業権(採堀権)設定の出願をした。

二  ところが、大滝根石材株式会社(以下、大滝根石材ともいう。)も同年四月七日被告に対し同地内の右(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)および(A)の各点を順次に結ぶ直線で囲む区域を含む地域について石灰石を目的とする鉱業権(採堀権)設定の出願をしたので、右に特定の区域については右両者の出願区域が重複した。

三  これに対し、被告は昭和三九年三月四日原告の出願のうち右に特定の区域に関する部分を不許可とし、その余を許可し、他方、大滝根石材の出願については右に特定の区域を含めて全部これを許可した。なお、原告に対する採堀許可は同月二七日福島県採堀権登録第一、二六四号として登録され、大滝根石材に対する右許可は同月一〇日福島県採堀登録第一、二五六号として登録された。

四  しかしながら、鉱業法第二七条によれば、原告と大滝根石材との出願が重複した区域については、その出願発送の日が先である原告が鉱業権の設定につき優先権を有するから、原告の出願を右区域について不許可とした被告の処分には違法な瑕疵がある。

五  原告は右処分につき同年五月一日通商産業大臣に審査請求をしたが、昭和四〇年六月五日これを棄却された。

六  よつて、被告の原告に対する右不許可処分の取消を求めるものである。

第三被告の主張

一  原告主張の請求原因一ないし三および五の各事実は認める。同四の事実中、原告の出願が大滝根石材の出願に先立つてなされたことを認め、その余を否認する。

(抗弁)

二  被告は原告主張の鉱業権設定出願が重複した区域につき次の理由により大滝根石材の優先権を認めて原告主張の各処分をなしたものであるから、右処分は適法である。すなわち、

(一)  原告および大滝根石材は当時国有林野であつた右区域を含む一帯の地域内において昭和一八年頃から石灰石を採堀していたが、それは同地域に格別土地使用権の設定を受けることなく、右国有林野を管轄する郡山営林署長から同地域に存する石灰石の売払いを受ける形式によつたものであつて、その採堀を許される範囲も必ずしも明確ではなかつた。もつとも、右営林署長は同年三月頃原告および大滝根石材に対しその申請により右地域内における石灰石を売払つたが、これに先立ち、白山放牧採草組合(以下、牧草組合ともいう。)に従前から右地域を放牧採草の目的で貸与していた関係を考慮して、原告および大滝根石材に牧草組合を加えた三者に事業区域を調整させたところ、その結果右三者間において各自の事業区域を定め、原告と大滝根石材との事業区域の境界を別紙図面の(I)、(A)および(B)の各点を順次に結ぶ直線とし、その西側の区域については大滝根石材が石灰石の売払いを受けてこれを採堀することに同意する旨の協定の成立をみた。そして、大滝根石材はそれ以来毎年継続して右協定による事業区域内の石灰石の売払いを受け、現に昭和二六年まで右区域内の北側部分を堀採していたのであつて、鉱業法の改正がなければ、その後も右区域の石灰石の売払いを継続的に受けていたであろうと推測される状況にあつた。なお、原告は右区域の一部において石灰石を採堀した事実があるが、それは右三者間の協定に違反するものであつた。

被告は原告および大滝根石材からなされた鉱業権設定の出願の許否を決するにあたり、鉱業法施行法(以下、単に施行法という。)第五条、第六条の優先区域の認定に関する資源庁通達(昭和二六年九月八日資庁第五五〇号)の趣旨、すなわち「賃借権その他の堀採権原の及ぶ範囲が坑口等に限られ、事実上堀採の対象となつている区域より狭い場合も関係土地所有者の明らかな反対の意思表示がない限り、鉱床の状態等を考慮して、合理的な範囲で現堀採区域の認定を行つて差し支えない。」「賃貸借契約、官公有地の鉱産物払下契約等に面積の定めのない場合は土地所有者、当該地域の管理主体等の明らかな反対の意思表示のない限り、契約の合理的な解釈により妥当と考えられる区域の認定を行つて差し支えない。」という趣旨に則り、郡山営林署長から聴取した前記事実を土台に判断した結果、前記出願の重複する区域については前記三者間の協定を尊重し、大滝根石材が施行法第五条による優先権を有するものと認定した。

(二)  仮に、右区域につき大滝根石材の施行法第五条による優先権がなかつたとしても、大滝根石材は右三者間の協定により牧草組合からその借受にかかる右区域を石灰石採堀のため転貸したものであるが、これについては右営林署長も承諾して、鉱業法施行の日たる昭和二六年一月三一日まで毎年右区域の石灰石を大滝根石材に売払つてきたから、大滝根石材は右区域につき施行法第六条による優先権を有した。

第四原告の主張―抗弁に対する答弁

一、被告主張の抗弁事実中、郡山営林署長が昭和一八年以前から牧草組合に被告主張の国有林野を放牧採草の目的で貸与していたこと、原告が同年頃から同地域に存する石灰石を郡山営林署長から売払いを受ける形式によつて毎年採堀していたことは認める。

二、しかし、

(一)  大滝根石材が右営林署長から右地域内における石灰石の売払いを受けていた事実はなく、大滝根石材は宗像利吉が売払いを受けた石灰石を同人の許諾のもとに採堀していたにすぎないから、その採堀の事実だけで大滝根石材の優先権を認めることはできない。また、その実際の採堀区域は〇、〇二ヘクタールにすぎないから、右区域にその周辺を加えた合理的な範囲以上に優先権を認めることはできない。

(二)  被告主張の協定は原告および大滝根石材がそれぞれ別個に牧草組合と結んだ契約たるに止まり、原告と大滝根石材との間の合意を含むものではない。しかも、その内容は石灰石の売払いを受けてこれを採堀することにより牧草組合の利用区域が事実上減少しても牧草組合に異議がないことおよび右採堀にあたつては牧草組合の放牧採草の安全を確保することというにすぎない。したがつて、右協定の成立を根拠に大滝根石材の優先権を認めることはできない。

ちなみに、原告と牧草組合との協定においては別紙図面の(I)、(H)および(C)の各点を順次に結ぶ直線をもつて両者の事業区域の境界線とされているから、少くともその東側区域については、むしろ原告が石灰石採堀の同意を得たものであつて、現に原告は昭和一八年以来鉱業法施行当時においても右区域内において石灰石の売払いを受けて採堀していたのである。

なお、被告主張の通達は賃貸借契約、官公有地の鉱産物払下契約等に目的たる土地の面積の定めがない場合のことを定めたものであるが、原告が従前石灰石の売払いを受けた契約には面積の定めがあつた。

(三)  仮に大滝根石材が牧草組合から石灰石採堀の目的で土地の転貸を受けたとしても、牧草組合には石灰石の処分権がなかつたから、右転貸借の事実を根拠に大滝根石材の施行法第六条による優先権を認めることはできない。

第五証拠関係〈省略〉

理由

前掲請求原因一ないし三および五の各事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告が原告に対し福島県田村郡大越町地内の別紙図面記載の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)および(A)の各点を順次に結ぶ直線で囲まれた区域についてなした鉱業権設定不許可処分の適否を決する争点は出願が重複した区域について原告と大滝根石材とのいずれに優先権があるかに帰着するので、この点について判断する。

現行鉱業法(昭和二五年法律第二八九号、昭和二六年一月三一日施行。以下、鉱業法または新法というのはこれを指す)は旧鉱業法(明治三八年法律第四五号)のもとで土地の一部とされていた石灰石、ドロマイド等をあらたに適用鉱物に追加し、これを試堀、採堀する権利を鉱業権として土地所有権から分離したうえ、鉱業権によらなければ、追加鉱物の堀採ができないこととした(鉱業法第七条)が、追加鉱物の鉱業権設定の出願につき新法施行後直ちに鉱業法第二七条の規定する先願主義の原則を適用すると、従前から追加鉱物を堀採している者、追加鉱物の取得を目的とする土地の使用に関する権利を有する者および土地所有者に不測の損害を与えるおそれがあるので、施行法第五条ないし第七条はこれらの者を保護するため経過的措置を講じた。なかでも、施行法第五条は新法施行の日の六ケ月以前から引続き追加鉱物を堀採している者が新法施行の日から六ケ月以内に当該追加鉱物を目的とする鉱業権設定の出願をしたときは当該堀採区域につき他の出願に対して優先権を有する旨を規定したが、右規定に該当する出願は施行法第六条または第七条の規定によつて優先権を与えられる土地の使用権者および土地所有者の出願にも優先する。ただ、しかし、施行法第五条は一見、現に追加鉱物を堀採している者を権利または権原の有無に関係なく保護するもののように解されるようであるが、条理からいつても、さように解するのは妥当でなく、むしろ、追加鉱物を現実に堀採している者がその採堀区域内の追加鉱物自体についてこれを取得するなんらかの権利を有する場合にその者からなされた鉱業権設定の出願を他の出願に優先させる趣旨であると解するのが相当である。

しかるところ、原告および大滝根石材の鉱業権設定出願が重複した区域が当時国有林野であつたこと、これを管轄する郡山営林署長が昭和一八年以前から右区域附近一帯の国有林野を放牧採草の目的で牧草組合に貸与していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証の五、証人小林孝夫(同証言中後記措信しない部分を除く。)、同鹿又炊高、同白土謙、同佐瀬四郎の各証言によれば、原告および大滝根石材はいずれも鉱物、石材等の堀採ならびに加工等を業とするものであるが、肥料用炭酸カルシウム製造のため、同年三月頃右営林署長に右国有林野内の未採堀石灰石の払下げを申請したところ、同営林署長は牧草組合の土地使用権との関係ならびに原告および大滝根石材の各事業区域を調整する必要を認め、原告および大滝根石材に牧草組合を加えた三者に相互の折衝をさせた結果、昭和一八年三月二四日右三者の間において当時から欅が存在した別紙図面記載の(I)点を基礎として原告および大滝根石材の各事業区域を定めたうえ、原告と牧草組合との間および大滝根石材と牧草組合との間の契約書ならびに右三者間の覚書を作成し、これによつて相互間の協定を結び、石標甲一号標識なる地点とを結ぶ直線の東側の区域を原告、また、西側の区域を大滝根石材の各事業区域とし、原告および大滝根石材の右各事業区域内の石灰石堀採につき牧草組合が同意したことが認められ、証人小林孝夫の証言中、右認定に反する供述部分は措信することができず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。もつとも、証人小林孝夫、同白土謙、同佐瀬四郎の各証言によれば、右にいう石標甲一号標識は当時、右契約書が指示した地点に存在しなかつたことが認められるが、証人西田憲夫、同鹿又炊高、同白土謙、同佐瀬四郎の各証言によれば、右協定の当事者はいずれも当時石標甲一号標識の存在ならびにその地点について格別疑いを抱かなかつたことが、さらに前出乙第二号証の五、証人鹿又炊高の証言によれば、むしろ右協定の当事者はいずれも当時、右欅の南側において国有林野と民有地との境界線、国有林野と採草地との境界線および民有地と採草地との境界線が交差する地点に石標甲一号標識が存在するものと認識していたことがそれぞれ認められ、証人佐瀬四郎の証言中、右協定の際石標甲一号標識の存在する地点として示されたのは右欅から嶺線に向つてほぼ九〇度の方向に当る別紙図面記載の(C)点付近である旨の供述部分はたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。したがつて、右協定の当事者は右各境界線の交差する地点と欅の地点とを結ぶ直線をもつて原告および大滝根石材の各事業区域の境界としたものであると認めるのが相当であるところ、成立に争いのない乙第六号証および検証の結果によれば、前記国有地、民有地および採草地の相互の各境界線の交差点は別紙図面記載の(B)点であることが認められるから、同地点と欅の地点とを結んだ直線を右協定による原告および大滝根石材の各事業区域の境界であると認めるほかはない。

そして、前出乙第二号証の五、原本の存在および成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、乙第二号証の一ないし四、同第四号証、同第五号証の一、二、証人小林孝夫(後記措信しない部分を除く。)、同西田憲夫、同白土謙、同佐瀬四郎の各証言を綜合すると、原告および大滝根石材はその後郡山営林署長から右協定による事業区域内の石灰石の売払いを受け、新法施行日の昭和二六年一月三一日まで原告は右区域の境界線寄りを、また大滝根石材はその北側部分を各採堀していたこと、ただ、当時、石灰石は土地の一部とみられ、いまだ法定鉱物とされていなかつたため、その採堀事業を行うにはこれを国有林野産物として毎年一定範囲について売払いを受けるという形式を採るほかなく、原告および大滝根石材も右事業区域内で継続事業として石灰石を堀採するには年度ごとに、そのつど具体的に指定された約〇・〇二ヘクタールの堀採範囲の石灰石の売払いを受けなければならなかつたが、実際には継続的な採堀事業の性質を考慮され、毎年継続的に売払いを受けていたものであること、なお、その売払いにあたつては右協定による事業区域を尊重して具体的な堀採範囲を決められていたものであることが認められ、証人小林孝夫の証言中右認定に反する供述部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、考えてみると、前出甲第一、第二号証、乙第二号証の三、成立に争いのない乙第五号証の一、二に国有林野産物売払規則(大正四年七月二四日農商務省令第一三号)を併せれば、右石灰石の売払いはこれにより郡山営林署長が原告および大滝根石材に対し国有林野内における石灰石の堀採を容認するとともに堀採した石灰石の所有権を取得させる義務を負担し、原告および大滝根石材が郡山営林署長に対しその対価を支払う義務を負担することを内容とする売買契約であることが認められるから、原告および大滝根石材は各指定区域内の石灰石を採取する一種の債権を取得し、これに基いて新法施行の日まで継続して石灰石を堀採していたものであつて、いずれも前記のように限定した意味において施行法第五条にいう現堀採者であるというべきであるが、前記認定の事情のもとにおいては、原告および大滝根石材が郡山営林署長との売払い契約によつて取得すべき石灰石の存在する区域はそれぞれ前記協定によつて定められ各自の事業区域に限られるものと解するのが相当である。しかるに、原告および大滝根石材の各鉱業権設定出願が重複した前掲区域が右協定による大滝根石材の事業区域内にあることはさきに説示したとおりであるから、被告が右出願重複区域につき大滝根石材に優先権を認めて原告の出願を不許可とした処分には違法な瑕疵がないものといわなければならない。

よつて、右処分の取消を求める原告の本訴請求を理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 小木曾競 海保寛)

別紙

(A)点 福島県採堀登録第一、二五六号鉱区点および鉱区番号20、46、

(B)点 営林八八石標(甲一号標)

(C)点 営林八六木標

(D)点 営林八五木標

(E)点 昭和三一年一〇月三〇日現在における訴外大滝根石材株式会社の採堀東端であることにつき当事者間に争いのない不確認点

(F)点 (G)、(J)点を結ぶ線と(E)、(K)点を結ぶ線の交差する地点

(G)点 福島県採堀登録第一、二五六号鉱区点および鉱区番号19、47、

(H)点 (I)、(C)点を結ぶ線と(A)、(G)点を結ぶ線の交差する地点

(I)点 欅の木(営林三五A木標)

(J)点 福島県採堀登録第一、二五六号鉱区点および鉱区番号18、48、

(K)点 営林七七木標

図〈省略〉

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